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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7086号 判決

高知県中村市安並三九七二番地九

(意匠登録原簿上の住所)

大阪市住吉区苅田三丁目六番八号

原告

橋本守正

大阪市住吉区苅田三丁目六番八号

原告

株式会社アロインス化粧品

右代表者代表取締役

橋本守正

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

辻川正人

東風龍明

片桐浩二

久世勝之

岩坪哲

田辺保雄

大阪市西淀川区姫里一丁目九番六号

被告

コスメクリエイトプロダクツ株式会社

右代表者代表取締役

河野克正

右訴訟代理人弁護士

田中英一

右訴訟復代理人弁護士

入江寛

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は別紙(一)記載の包装用容器(以下「イ号物件」という。)入りのアローレンススキンクリーム(以下「被告商品」という。)を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。

二  被告は前項記載の被告商品を廃棄せよ。

三  被告は原告株式会社アロインス化粧品に対し五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  当事者の営業

1  原告株式会社アロインス化粧品(以下「原告会社」という。)は、原告橋本守正(以下「原告橋本」という。)が昭和五六年九月から「アロインコスメチックス」の屋号により個人で経営してきた化粧品の製造販売事業を株式会社組織に改めるため(いわゆる法人成り)、昭和五九年六月二一日に設立した株式会社である(甲第一二号証、第五二号証、弁論の全趣旨)。

2  被告は、各種化粧品類の製造加工販売等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。

二  原告橋本の有する権利(意匠法関係)

1  原告橋本は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している(登録意匠の内容を除き、争いがない。)。

出願日 昭和六〇年八月七日(意願昭六〇-第三三七〇六号)

意匠に係る物品 包装用容器

登録日 昭和六三年三月二二日

登録番号 第七三七六七〇号

登録意匠 別紙意匠公報(甲第二号証。以下「意匠公報」という。)表示のとおり

2  本件意匠の構成

本件意匠は、意匠公報によれば、次の構成から成るものと認められる(なお、意匠公報には「この意匠は図面代用写真によって表わされたものであるから細部および色彩については原本を参照されたい。」と記載されているが、検乙第一号証の1~10によれば、本件意匠の意匠登録の出願の願書に添付された図面代用写真〔原本〕はカラー写真ではなく、モノクロ写真であることが認められるから、本件意匠は、色彩を限定しないものというべきである。)。

(1) 有底円筒状の容器本体と、有底円筒状の蓋体から成る包装用容器であり、閉蓋状態で容器本体の周壁外面と蓋体の周壁外面は面一である。

(2) 容器全体の閉蓋状態での縦横比は約一対一であり、蓋体と容器本体の高さ比は約一対三である。

(3) 容器本体及び蓋体の外面は暗色である。

(4) 容器本体の上端には、外径が僅かに小さい雄ネジ部を連設している。

(5) 雄ネジ部の下端全周には、細幅の中心部分が凹状になっている明色のリング部を設けている。

(6) 容器本体の底面には、容器外周と同心の浅い円形凹部を中央に大きく設けている。

(7) 蓋体の上面中央には、斜め上方に四方に延びる多数の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる茎及びその上端の花から成るアロエと覚しき花図柄二つを、一方を倒置して近接して描いた図柄模様を大きく浮き彫りしている。

二  原告商品の製造販売と包装用容器(不正競争防止法関係)

原告会社は、昭和六一年頃から、アロエエキス配合のクリーム(商品名「アロインスオーデクリームS」。以下「原告商品」という。)を製造、販売しているところ(証人室田富夫、弁論の全趣旨)、その包装用容器の形態は別紙(二)記載のとおりである(争いがない。以下「A号物件」という。)。

なお、包装用容器としてA号物件を使用した原告商品の販売開始時期について、甲第五三号証には昭和五九年春である旨記載されているが、原告会社自体右販売開始時期は昭和六一年頃であると主張し、証人室田富夫、同林樹一もこれを前提とした証言をしていること、原告商品のチラシを最初に作成したのが昭和六〇年一〇月であり(甲第一三号証の2)、業界新聞に原告商品の宣伝広告を最初に掲載したのが昭和六一年一〇月二七日であること(甲第一九号証の1・2)、後記第四の二1(二)掲記の甲第三〇号証によれば、昭和六一年二月の原告商品のシェアは〇%とされていることに照らし、原告会社がA号物件を使用した原告商品の製造販売を本格的に開始したといえるのは昭和六一年頃のことと認められる。

三  被告商品の製造販売と包装用容器

被告は、平成元年頃から、イ号物件に入った被告商品、すなわちアロエエキス配合のクリーム(商品名「アローレンススキンクリーム」)を製造し、販売し、販売のために展示している(争いがない。)。

四  請求

本件請求は、原告らが、(1)イ号物件の意匠は本件意匠に類似し、また、(2)A号物件は、その形態の特徴(要部)が、〈1〉容量が一八五グラム入りで、従来の化粧クリームの包装用容器(ほとんどが四〇ないし五〇グラム入り)と比較してやや大きめのものである点、〈2〉容器本体及び蓋体の外面の色彩が従来の化粧クリームの包装用容器にはなかった鮮やかなパール入りの緑色である点、〈3〉雄ネジ部の下端全周に細幅の金色のリング部を設けている点(以下、右〈1〉ないし〈3〉をまとめて「原告会社主張の容器形態」という。)にあり、原告会社の商品であることを示す表示として、平成二年初め頃には日本国内において需要者の間に広く認識されるに至っている(周知性を獲得)ところ、(3)イ号物件は、原告会社主張の容器形態においてA号物件と同じであり、その使用は被告商品と原告商品との間に混同を生じさせ、不正競争行為を構成すると主張して、被告に対し、原告橋本が意匠法三七条に基づき、原告会社が不正競争防止法(平成五年法律第四七号。以下同じ。)二条一項一号、三条に基づき、被告商品の製造、販売及び販売のための展示(侵害行為)の停止及び侵害行為組成物たる被告商品の廃棄を求めるとともに、(4)原告会社が不正競争防止法四条に基づき、被告の本件不正競争行為により原告会社に生じた損害の賠償として五〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

五  争点

(原告橋本の意匠権に基づく差止請求について)

1 イ号物件の意匠は本件意匠に類似するか。

(原告会社の

2 原告会社主張の容器形態を特徴とするA号物件は、原告会社の商品表示として周知性を獲得しているか。

3 イ号物件の形態はA号物件の形態と類似し、被告商品と原告商品との間に混同を生じるか。

4 被告の行為が不正競争行為に該当する場合、被告に過失があったか。それが肯定された場合、被告が賠償すべき原告会社に生じた損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  原告橋本の本件意匠権に基づく差止請求関係・争点1(イ号物件の意匠は本件意匠に類似するか)について

【原告橋本の主張】

1 イ号物件の意匠は、本件意匠と次の形態において一致している。

(1) 有底円筒状の容器本体と、有底円筒状の蓋体から成る包装用容器であり、閉蓋状態で容器本体の周壁外面と蓋体の周壁外面は面一であること(イ号物件の意匠と本件意匠の各構成(1))。

(2) 蓋体と容器本体の高さ比は約一対三であること(各構成(2))。

(3) 容器本体の上端には、外径が僅かに小さい雄ネジ部を連設していること(各構成(4))。

(4) 雄ネジ部の下端全周には、細幅のリング部を設けていること(各構成(5))。

(5) 容器本体の底面には、容器外周と同心の浅い円形凹部を中央に大きく設けていること(各構成(6))。

2 一方、イ号物件の意匠は、本件意匠と次の形態において相違している。

(1) 容器全体の閉蓋状態で、イ号物件の意匠では幅が高さより少し長いのに対し、本件意匠では容器全体の縦横比は約一対一であること(各構成(2))。

(2) 容器本体及び蓋体の外面は、イ号物件の意匠ではパール入りの緑色であるのに対し、本件意匠では暗色であること(各構成(3))。

(3)蓋体の上面中央に、イ号物件の意匠では〈省略〉形の金色の図柄があるのに対し、本件意匠では斜め上方に四方に延びる多数の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる茎及びその上端の花から成るアロエと覚しき花図柄二つを、一方を倒置して近接して描いた図柄模様を大きく浮き彫りしていること(各構成(7))。

3 イ号物件の意匠と本件意匠とを全体として比較すれば、右(一)記載の一致点が看者の注意を惹き、右(二)記載の相違点は部分的微差にとどまる(本件意匠は色彩を限定しないものであるから、(2)の相違点は両意匠の類否に関係が無い。)ので、イ号物件の意匠は本件意匠に類似する。

【被告の主張】

1 本件意匠の特徴部分(要部)は、蓋体の上面中央に、斜め上方に四方に延びる多数の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる茎及びその上端の花から成るアロエと覚しき花図柄二つを、一方を倒置して近接して描いた図柄模様を大きく浮き彫りしている点(本件意匠の構成(7))にある。その余の形態は、従来のクリームの包装用容器の意匠に照らし、一般的かつ典型的なものであって、格別創作性を有するものではない。すなわち、アロエエキス配合のクリームの包装用容器(検乙第二号証~第五号証)は、いずれも概ね似たような形態をしており、細部に多少の差異はあっても、本件意匠の構成(1)ないし(6)に似たものとなっている。

2 イ号物件の意匠は、右特徴部分(要部)において本件意匠と明らかに異なっているから、本件意匠の類似範囲に属しない。

二  原告会社の不正競争防止法に基づく請求関係

1  争点2(原告会社主張の容器形態を特徴とするA号物件は、原告会社の商品表示として周知性を獲得しているか)について

【原告会社の主張】

原告会社主張の形態を特徴とするA号物件は、以下のとおり、平成二年初め頃までには原告会社の商品表示として需要者の間に広く認識されるに至っている。

(一) 原告会社は、資本金一〇〇〇万円、従業員三五人で、肩書住所地所在の本店の外に大阪支店、東北支店(仙台)及び高知支社(中村)を有している。取扱商品は三〇種類に及ぶが、そのうちA号物件入りの原告商品の占める割合は約六五%である。原告会社の年商は、昭和五九年六月から平成六年四月二〇日までの間平均約一二、三億円であり、株式会社花王その他の有名企業の間にあっても常に上位にランクされている(甲第三号証~第一一号証、第三〇号証~第三九号証、第五〇号証)。

(二) 原告会社は、昭和六一年から現在まで、原告商品を掲載したカタログ、チラシ、会社案内等を多数印刷配布し(甲第一二号証、第一三、第一四号証の各1・2、第一五号証、第一六号証~第一八号証の各1・2、第二八号証の1・2、第四七号証~第四九号証の各1・2)、テレホンカード(甲第四一号証の1・2)やカレンダー(甲第四六号証の1・2)を配布し、また、新聞、雑誌等に多数の宣伝広告を掲載し(甲第一九号証の1・2、第二一号証~第二六号証、第二九号証の1・2)、大阪国際空港国内線到着バゲージクレーム内に電照看板を掲出し(甲第二七号証、検甲第三号証、第四号証)、熊本市内に屋上広告塔を設置する(甲第二〇号証の1・2、第五一号証の1・2、検甲第五号証の1~3)などして、原告商品の宣伝広告に努めてきた。

(三) 原告会社は、札幌、浜松、大牟田に販売会社を設け、そこから原告商品を第一次問屋(二〇ないし三〇軒)や第二次問屋(一〇〇軒)に販売し、第一次問屋からは第二次問屋の外、スーパー、小売店に、第二次問屋からはスーパー、小売店に販売しており、全国約一〇万軒の化粧品小売店のうち約三万軒が原告商品を取り扱っている(甲第四二号証)。

(四) 以上の結果、原告商品は業界で五ないし一〇%のシェアを占め、業界トップの地位にある。

(五) 被告は、A号物件の構成が個別的にそれぞれの包装用容器に存在すると主張するが、A号物件の特徴は、前記第二の四の〈1〉ないし〈3〉の三点(原告会社主張の容器形態)が一体として構成されていることにある。

また、A号物件の構成(3)と同じ色彩は被告提出の書証(乙第八号証の1・2、第九号証の2)には存在しないし、同(5)については単にリング部が存在するというだけである。

【被告の主張】

(一) A号物件の構成のうち、(1)ないし(7)の点は、以下の理由により、いずれもA号物件の特徴とはいえない。

同(1)の、有底円筒状の容器本体と、有底円筒状の蓋体から成る包装用容器であり、閉蓋状態で容器本体の周壁外面と蓋体の周壁外面は面一であるとの点は、化粧クリームの包装用容器の一般型(乙第三号証の4・5、第四号証の3~5、第五号証の2・3)にすべて共通することからも明らかなように、どのような化粧クリームの包装用容器にも共通する形態である。

同(2)の、容器全体の閉蓋状態での縦横比は約一対一であり、蓋体と容器本体の高さ比は約一対三・五であるとの点は、原告商品の製造販売開始時期よりも前に頒布された化粧クリームの包装用容器の一般型のカタログ(乙第三号証の4・5)にも見られるように一般にありふれた構成である。

同(3)の、容器本体及び蓋体の外面はパール入りの緑色であるとの点は、既に昭和五一年頃には被告において使用していた色彩である(乙第八号証の1・2、第九号証の2)。

同(4)の、容器本体の上端に、外径が僅かに小さい雄ネジ部を連設しているとの点は、化粧クリームの包装用容器の一般型(乙第三号証の5、第四号証の4、第五号証の2・3)に共通して見られるように、包装用容器に共通した形態である。

同(5)の、雄ネジ部の下端全周に細幅のリング部を設けているとの点は、既に昭和五一年頃には被告において使用していたものであり(乙第八号証の1・2)、包装用容器の一般型の製造会社においても広く採用している意匠である(乙第五号証の2)。

同(6)の、容器本体の正面には、中央下寄りに、斜め上方に四方に延びる五葉の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる花から成るアロエと覚しき花図柄の図柄模様を白色で大きく描いているとの点は、昭和五六、七年に発売されたシボレー株式会社のアロエエキス配合の化粧クリームの包装用容器(乙第六号証、第七号証)や昭和六〇年に発行された化粧クリームの包装用容器の一般型のカタログ(乙第三号証の4五頁左下隅)に同様のものが掲載されているように、およそアロエエキス配合の化粧クリームの包装用容器においては多少の形の違いはあっても一般的である。

同(7)の、容器本体の底面には容器外周と同心の浅い円形凹部を中央に大きく設けているとの点は、およそ包装用容器といえるもののすべてに共通する形態である。

(二) これに対し、同(8)の、蓋体の上面中央に、斜め上方に四方に延びる多数の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる茎及びその上端の花から成るアロエと覚しき花図柄二つを、一方を倒置して近接して描いた図柄模様を大きく浮き彫りしているとの点は、他の化粧クリームの包装用容器には見られない斬新な意匠であり、独自の構成といえるものであるから、A号物件の形態の特徴といえる。

(三) 原告会社主張の容器形態のうち、容量が一八五グラム入りで、従来の化粧クリームの包装用容器(ほとんど四〇ないし五〇グラム入り)と比較してやや大きめのものであるとの点は、既に昭和五八年七月には一八五グラム入りの商品(アロインオーデクリーム)が市販されていたから(乙第一〇号証の1~3)、A号物件の形態の特徴とはいえない。このことは、シボレー株式会社の一五〇グラム入りのアロエエキス配合のシボレーハンドクリームが昭和五六年に販売されていたことからも推認され(乙第六号証)、さらに、昭和六〇年に発行された化粧クリームの包装用容器の一般型のカタログ(乙第三号証の5)に、内容量(満量)が八九mlから三八六mlまでの包装用容器の例が示されており、A号物件の容量に近いものとして容量一六三mlの包装用容器の一般型が示されていることからも明らかである。

2  争点3(イ号物件の形態はA号物件の形態と類似し、被告商品と原告商品との間に混同を生じるか)について

【原告会社の主張】

被告商品の包装用容器であるイ号物件の形態は、A号物件における原告会社主張の容器形態と同じ特徴を具えているから、A号物件と類似し、離隔的に観察した場合、一般消費者が被告商品と原告商品とを混同することは明らかである。

【被告の主張】

イ号物件は、A号物件の特徴である右(8)の構成を具備せず、蓋体の上面中央には〈省略〉形の金色の図柄が描かれているだけであるから、A号物件と全く異なる構成を有するものであり、一般消費者が被告商品と原告商品とを混同する余地はない。

3  争点4(被告の行為が不正競争行為に該当する場合、被告に過失があったか。それが肯定された場合、被告が賠償すべき原告会社に生じた損害の額)について

【原告会社の主張】

(一) 被告の本件不正競争行為は過失に基づくものである。

被告は、訴外株式会社エヌ・シー・オーから依頼を受けて被告商品を販売しただけである旨主張するようであるが、被告は、平成四年六月一五日に同社から登録番号第二二五四八〇八号の登録商標「AROLENS(アローレンス)」にかかる商標権を譲り受け、同年九月に同社が倒産した後は自らイ号物件を使用した被告商品を製造販売している。

(二) 原告会社は、被告の不正競争行為により以下のとおり五〇〇〇万円の損害を被った。

すなわち、原告会社は、A号物件を使用した原告商品を次のとおり合計九一五万個販売した。

(1) 昭和六一年度 一二八万個

(2) 昭和六二年度 一五五万個

(3) 昭和六三年度 一五〇万個

(4) 平成元年度 一一八万個

(5) 平成二年度 一一二万個

(6) 平成三年度 一一七万個

(7) 平成四年度 一三五万個

ところが、被告が平成四年九月に自らイ号物件を使用した被告商品を製造販売するに及んで、原告商品の売上は減少している。一方、被告は平成四年九月頃から平成六年一〇月までの間に被告商品を合計一億六〇〇〇万円売り上げ、五〇〇〇万円の純利益を得た。したがって、原告会社は同額の損害を被ったものと推定される(不正競争防止法五条一項)。

【被告の主張】

原告の主張は争う。

被告は製造元であり、平成四年五月までは訴外株式会社エヌ・シー・オーから、同年一一月からは株式会社ジャパンサービス・カンパニーからそれぞれ注文を受け、これらの会社に販売したものである。

第四  争点に関する判断

一  原告橋本の本件意匠権に基づく差止請求関係・争点1(イ号物件の意匠は本件意匠に類似するか)について

1  元来、登録意匠の特徴ないし要部(看者の注意を惹く部分)となるのは、公知意匠にはない新規で創作性のある部分であるところ、後記二2に認定の事実に照らすと、前記第二の二2認定の本件意匠の構成(1)ないし(6)は、いずれも公知意匠にはない新規で創作性のある部分とは認め難く、全体的に観察しても、本件意匠の特徴(要部)は、構成(7)の、蓋体の上面中央に、斜め上方に四方に延びる多数の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる茎及びその上端の花から成るアロエと覚しき花図柄二つを、一方を倒置して近接して描いた図柄模様を大きく浮き彫りしている点にあると認める外はない。

そこで、イ号物件の意匠を本件意匠と対比するに、イ号物件の意匠では、本件意匠の特徴(要部)である構成(7)を具えておらず、蓋体の上面中央に〈省略〉形の図柄があるだけであって、本件意匠と顕著に相違し、全体として美感を異にするものと認められるから、イ号物件の意匠は本件意匠に類似しないというべきである。

2  そうすると、原告橋本の被告に対する本件意匠権に基づく差止請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことになる。

二  原告会社の不正競争防止法に基づく請求関係・争点2(原告会社主張の容器形態を特徴とするA号物件は、原告会社の商品表示として周知性を獲得しているか)について

原告会社は、A号物件は、その形態の特徴(要部)が、原告会社主張の容器形態、すなわち〈1〉容量が一八五グラム入りで、従来の化粧クリームの包装用容器(ほとんどが四〇ないし五〇グラム入り)と比較してやや大きめのものである点、〈2〉容器本体及び蓋体の外面の色彩が従来の化粧クリームの包装用容器にはなかった鮮やかなパール入りの緑色である点、〈3〉雄ネジ部の下端全周に細幅の金色のリング部を設けている点にあり、原告会社の商品であることを示す表示として、平成二年初め頃には日本国内において需要者の間に広く認識されるに至っている(周知性を獲得)旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

右認定判断の理由は、以下のとおりである。

1  証拠(各項に掲記)によれば、次の(一)ないし(三)の事実が認められる。

(一) 原告会社は、昭和五九年六月二一日に設立されて以来、宮城県仙台市と高知県中村市に支店を設けるとともに、専ら原告会社の商品のみを取り扱う販売会社を大阪、札幌、浜松、福知山、大牟田に設け、右販売会社から全国の第一次問屋(二〇ないし三〇軒)や第二次問屋(一〇〇軒)を通じて原告会社の商品を全国各地のスーパーマーケットや化粧品店等の小売店に販売している(甲第四二号証、第五二号証)。原告会社の商品は三〇種類に及び、売上高は毎年一二億円程度であるが、その売上高の約六五%は原告商品によるものである(甲第四四号証、証人猿谷秀次)。

(二) 全国でドラッグストアのボランタリーチェーンを展開中のファルマ・グループに加盟する薬局・薬店(昭和六二年二月で八一一店、平成四年一〇月で一一七六店)による原告商品の月間販売数量(発注数量)、基礎化粧品の総販売数量に占める原告商品のシェア及びシェア順位の変遷状況は次表記載のとおりであり、また、右薬局・薬店による平成元年の原告商品の年間販売数量は約二万二九〇〇個、前同様の原告商品のシェアは約五・二%、シェア順位は三位であり、同じく平成四年の原告商品の年間販売数量は約二万〇四〇〇個、前同様の原告商品のシェアは約四・三%、シェア順位は三位である(甲第三〇号証~第三九号証・雑誌「国際商業」)。

調査時期 月間販売数量 (約個) 市場シェア (約%) シェア順位

昭和六二年二月 一〇〇〇 四・一 五位

一〇月 一六〇〇 八・一 一位

昭和六三年三月 一六〇〇 八・〇 一位

五月 八〇〇 一・三 二〇位

八月 四〇〇 一・七 一一位

一〇月 三三〇〇 一〇・〇 一位

平成元年三月 二〇〇〇 五・一 三位

八月 四〇〇 一・一 一八位

平成二年一〇月 三七〇〇 一〇・三 一位

平成三年五月 一〇〇〇 二・七 六位

一〇月 二四〇〇 五・九 二位

平成四年五月 一二〇〇 二・八 五位

一〇月 三一〇〇 七・三 二位

(三) 原告会社は、昭和六一年頃から現在まで、原告商品の写真を掲載した会社案内やチラシ、パンフレット等(甲第一二号証、第一三、第一四号証の各1・2、第一五号証、第一六号証~第一八号証の各1・2、第二八号証の1・2、第四七号証~第四九号証の各1・2)、「アロインス」の名称を付したオリジナルテレホンカード(甲第四一号証の1・2)、原告商品の写真を掲載したカレンダー(甲第四六号証の1・2)を大量に配布し、また、業界新聞や女性週刊誌等に原告商品の写真入りの宣伝広告を多数回にわたって掲載し(甲第一九号証の1・2、第二一号証~第二六号証、第二九号証の1・2)、あるいは昭和六二年三月二〇日から平成四年四月三〇日までの間、大阪国際空港国内線到着バゲージクレーム内に原告商品の写真を掲げた電照看板を掲出したり(甲第二七号証、検甲第三号証、第四号証)、昭和六一年一一月から熊本市内のビルの屋上にA号物件の大きな模型を掲げた広告塔(甲第二〇号証の1・2、第五一号証の1・2、検甲第五号証の1~3)を設置するなどして、A号物件を使用した原告商品の宣伝広告に努めてきた(甲第四四号証、証人猿谷秀次)。

右認定の事実によれば、原告商品は、これまで長年にわたり継続的に基礎化粧品市場で大量に製造販売されてきた実績があり、広範な宣伝広告活動が展開されてきた商品であるということができる。

2  しかしながら、商品の包装用容器の形態が商品表示として周知性を獲得するためには、右形態が他の類似包装用容器と比べ需要者の感覚に端的に訴える独自の特徴を有し、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解し得る程度の識別力を備えていること及び当該包装用容器の形態が特定の営業主体の商品に排他的に使用されて、その排他的使用が長期間にわたるか又は短期間でも強力に宣伝広告されたものであることが必要である。

これを本件についてみるに、証拠(各項に掲記)によれば、次の(一)ないし(八)の事実が認められる。

(一) 化粧品業者の中には、自ら商品の包装用容器の形態をデザインしていわゆる留型を製作するのではなく、ボトル業者の保有している各種の一般型を使用して包装用容器を製作する者も相当数あるところ(乙第一六号証、被告代表取締役河野克行)、昭和六〇年七月発行のボトル業者竹本容器株式会社の商品カタログ「TAKEMOTO BOTTLE Guide Book 1」(乙第三号証の1~7)、同竹本容器株式会社、竹本容器工業株式会社の商品カタログ「TAKEMOTO BOTTLE Guide Book 3 1989-1992」(乙第四号証の1~6)、同株式会社全粧の商品カタログ「ジュテック 商品カタログ 608」(乙第五号証の1~4)によると、A号物件の構成のうち以下の点は、いずれも化粧クリーム用包装用容器の一般型が有する形態である。

(1) A号物件の構成(1)の、有底円筒状の容器本体と、有底円筒状の蓋体から成る包装用容器であり、閉蓋状態で容器本体の周壁外面と蓋体の周壁外面は面一であるとの点(乙第三号証の4・5、第四号証の2、4、5)

(2) 同(2)の、容器全体の閉蓋状態での縦横比は約一対一であり、蓋体と容器本体の高さ比は約一対三・五であるとの点(乙第三号証の4・5)

(3) 同(4)の、容器本体の上端に、外径が僅かに小さい雄ネジ部を連設しているとの点(乙第三号証の5、第四号証の4、第五号証の2)

(4) 同(5)の、雄ネジ部の下端全周に細幅のリング部を設けているとの点(乙第五号証の2・3)

(5) 同(6)の、容器本体の正面にアロエと覚しき花の図柄模様を白色で大きく描いているとの点(乙第三号証の4五頁左下隅)

(二) A号物件の構成(3)の、容器本体及び蓋体の外面はパール入りの緑色であるとの点については、被告製造の商品の発売元である株式会社名香化粧品が昭和五一、二年頃に発行した商品カタログ(乙第八号証の1・2、第一六号証、被告代表取締役河野克行)及び昭和五九年四月発行のカネボウ化粧品の商品ガイドブック(乙第九号証の1~3)に、容器本体及び蓋体の外面又は蓋体の外面がA号物件のパール入りの緑色に酷似した色彩の包装用容器を使用した化粧品が掲載されている。また、前者の包装用容器は、A号物件の構成(5)の、雄ネジ部の下端全周に細幅の(金色の)リング部を設けているとの点も具えており、後者の包装用容器は、蓋体の上端全周及び下端全周に細幅の金色のリング部を設けている。

(三) A号物件の構成(7)の、容器本体の底面に容器外周と同心の浅い円形凹部を中央に大きく設けているとの点は、有底円筒状の容器本体と有底円筒状の蓋体から成る包装用容器に共通する形態であるとともに(例えば検乙第二号証~第五号証の各1~5)、この種商品の販売時の展示方法(検甲第六、第七号証の各1~3)あるいは使用時の状態を前提とした場合、需要者の注意を惹く部分ではない。

(四) シボレー株式会社は昭和五六年に容量一五0グラムの「Siboley HAND CREAM アロエエキス配合」を、昭和五七年に容量三〇〇グラムの「Siboleyクレンジング&マッサージクリーム COLD CREAM アロエエキス配合」をそれぞれ販売しており、それらの商品の包装用容器の本体正面にはアロエと覚しき花の図柄模様が描かれていた(乙第六号証、第七号証、弁論の全趣旨)。

また、前掲「TAKEMOTO BOTTLE Guide Book 1」(乙第三号証の1~7)には八九mlから三八六mlまでの各種容量の、前掲「TAKEMOTO BOTTLE Guide Book 3 1989-1992」(乙第四号証の1~6)には六mlから二一二mlまで(JCS SERIES, COIN SERIES)、三三mlから三八六mlまで(MCW SERIES, Hi MCW SERIES)、三mlから五二〇mlまで(MC SERIES)の各種容量の化粧クリーム用包装用容器の一般型が示されている。

(五) 昭和五八年七月発行のハラ株式会社のハラ・ビューティカタログ第一巻(乙第一0号証の1~3)には、一八五グラム入りの「アロインオーデクリーム」の広告が掲載されており、その包装用容器は、原告商品の包装用容器であるA号物件と同様、有底円筒状の容器本体と有底円筒状の蓋体から成る包装用容器であって、閉蓋状態で容器本体の周壁外面と蓋体の周壁外面は面一であり、容器本体の正面にはアロエと覚しき花の図柄模様が大きく描かれている。

(六) 原告商品と同種のアロエエキス配合のクリームは、原告商品の製造販売開始時期よりも相当以前から原告会社以外の化粧品業者によって販売されており、現在では、その市場は既に成熟段階に入って多数の業者が競合しているが(乙第一六号証、証人室田富夫、弁論の全趣旨)、そのほとんどが、色相や明度及び彩度等の細部の違いはあれ、閉蓋状態で周壁外面が面一となる有底円筒状の容器本体と有底円筒状の蓋体から成り、外表面をアロエのグリーンをイメージしたとみられる緑色に彩色し、蓋体の下端全周又は雄ねじ部の下端全周に細幅のリング部又は帯条を設け、アロエと覚しき花の図柄模様を容器本体の正面又は蓋体の上面中央に描いているなど、原告会社主張の容器形態を含むA号物件の構成(1)ないし(7)の点で酷似した包装用容器を使用している(例えば、株式会社北尾化粧品部発売の容量一八五グラムの「スワン アロテッククリーム」〔検乙第二号証の1~5〕、サルタン化粧品発売の容量二〇〇グラムの「シャンデルクリーム」〔検乙第三号証の1~5〕、ニッシン化研株式会社発売の容量二一〇グラムの「アロチャームスキンクリーム」〔検乙第四号証の1~5〕、株式会社アロエッセン化粧品発売の容量一八五グラムの「アロエッセン スキンクリーム」〔検乙第五号証の1~5。但し、アロエと覚しき花の図柄模様の点は除く。〕)。

(七) 原告会社は、地域によってS型(A号物件)とT型の二つのタイプの包装用容器を使用して原告商品を販売しており、このうちT型包装用容器(例えば、甲第一七、第一八号証の各1、第二二号証~第二五号証に写真が掲載されている。)は、蓋体の上面中央にアロエと覚しき花の図柄模様を金色で浮き彫りした上、その周囲を取り囲むように大きなアロエと覚しき花の図柄模様を円形に三つ連ねて浮き彫りし、さらに容器本体の周壁部分にも大きなアロエと覚しき花の図柄模様を数個連ねて浮き彫りしている点がS型包装用容器(A号物件)の構成と顕著に相違している。

(八) 原告商品の一個当たりのメーカー希望小売価格は一八〇〇円であるが、実際の店頭では半額に近い価格で販売されることもあり、被告商品もほとんど同額で販売されている。このように両商品とも化粧品としてはその価格が比較的低廉であり、日常的に比較的多量に消費される商品であることもあって、いわゆる化粧品売場よりもむしろ日用雑貨等と並べて展示販売されることも多い(甲第二一号証~第二五号証、検甲第六、第七号証の各1~3、弁論の全趣旨)。

以上の認定事実によれば、原告会社が原告商品の包装用容器であるA号物件の特徴として挙げる、〈1〉容量が一八五グラム入りで、従来の化粧クリームの包装用容器(ほとんどが四〇ないし五〇グラム入り)と比較してやや大きめのものであり、〈2〉容器本体及び蓋体の外面の色彩が従来の化粧クリームの包装用容器にはなかった鮮やかなパール入りの緑色であり、〈3〉雄ネジ部の下端全周に細幅の金色のリング部を設けているという原告会社主張の容器形態は、原告商品の製造販売開始時点である昭和六一年当時、既に化粧品業界において使用されていた先例があり、これをそのまま踏襲したありふれた形態であって、それ以上に独自の特徴を有しておらず、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解し得る程度の強い識別力を具備したものであったとは認められない(以上のことは、次の構成(8)を除き、A号物件の構成中原告会社主張の容器形態以外の点についてはよりいっそうあてはまるものである。)。原告会社は、A号物件の特徴は右〈1〉ないし〈3〉の三点が一体として形成されていることにあると主張するが、〈2〉の点と〈3〉の点とを兼ね具えた包装用容器(乙第八号証の1・2)が既に存在していた(〈2〉の点と細幅の金色のリングという組合せは乙第九号証の1~3にも見られる。)状況のもとでは、これに〈1〉の点が加わったからといって、強い識別力を取得するとは認められない。そして、A号物件を全体として観察すれば、その構成(8)の、蓋体の上面中央に、斜め上方に四方に延びる多数の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる茎及びその上端の花から成るアロエと覚しき花図柄二つを、一方を倒置して近接して描いた図柄模様を大きく浮き彫りしている点が、他の化粧クリームの包装用容器には見られない斬新な独自の形態であると認められる。

3  前示のとおり原告商品の発売後原告会社は原告商品について広範な宣伝広告活動を展開したことが認められるが、原告会社が、原告商品の包装用容器であるA号物件の形態について需要者にアピールしその周知を図るべく、意識的に原告会社主張の容器形態のみを取り出して、その点に的を絞って需要者に訴える強力で効果的な宣伝広告活動を展開した形跡は、本件全証拠によるも窺うことができない。かえって、アロエエキス配合のクリームは、原告商品の製造販売開始時期よりも相当以前から原告会社以外の化粧品業者によって販売されており、しかも現在では、競合する多数の業者のほとんどが原告会社主張の容器形態を含むA号物件の構成(1)ないし(7)の点で酷似した包装用容器を使用しているのである。また、原告会社は、地域によってS型包装用容器(A号物件)だけでなく、外面の浮き彫り模様の点で顕著に相違するT型包装用容器をも使用して原告商品を販売しており、原告会社が統一したコンセプトのもとに原告商品の包装用容器としてA号物件を使用しているものとは考え難い。

高級感をアピールするような類の化粧品とは異なり、原告商品や被告商品のように比較的低廉で実用的な基礎化粧品の需要者は、その包装用容器の見た目の形状や色彩にさほど強い興味や関心を抱くとは考えられず、肌の手入れなど美容への強い関心に基づく豊富な商品知識により、メーカー名、商品自体の効能や安全性及び商品価格に一番着目し、それらの点について自ら他の商品と比較検討してこれを選択し購買するであろうと推認するに難くなく、原告商品の包装用容器であるA号物件において需要者の注意を強く惹く部分があるとすれば、前示のとおり他の包装用容器には見られない斬新な独自の形態である蓋体の上面中央に浮き彫りされたアロエと覚しき花の図柄模様であるといわざるを得ない。

また、この種商品は、小売店舗の店頭において、原告商品と被告商品が他のメーカーの同種商品とともに一か所に集められて一緒に陳列販売されている場合のあることが認められるが(検甲第六、第七号証の各1~3)、そのような場合でも、需要者は、各商品のメーカー名や商品名等の掲示(検甲第七号証の2・3)によって、そのような掲示がなくとも各商品に表示されたメーカー名ないし商標(検甲第一号証、第二号証)によって、各商品が別異のメーカーの商品であることを認識することができるものと認められる。

してみると、この種商品の需要者は、A号物件及びイ号物件を見ても、類似した外観形状や色彩の包装用容器を使用したアロエエキス配合のクリームが多数の業者を出所として販売されていると認識するにすぎず、A号物件における原告会社主張の容器形態に注目して特定の販売業者の商品であると判断して商品を選択し購買しているものとは認められない。

4  以上を要するに、原告商品のこれまでの販売実績、宣伝広告等の前記認定の諸事情を総合考慮してもなお、原告会社主張の平成二年初め頃の時点はもちろん現時点においても、原告商品の包装用容器であるA号物件が原告会社主張の容器形態の故をもって原告会社の商品を示す表示として周知性を獲得していると認めるのは困難であるといわざるを得ない(A号物件が仮に原告会社の商品であることを示す表示として周知性を獲得しているとすれば、前示のとおり他の化粧クリームの包装用容器には見られない斬新な独自の形態であるところの、蓋体の上面中央に浮き彫りされたアロエと覚しき花の図柄模様の故であると認められるところ、被告商品の包装用容器であるイ号物件には、そのような花の図柄模様はなく、代わりに〈省略〉形の金色の図柄があるだけであるから、需要者において被告商品と原告商品とを混同するものとは認められない。)。

そうすると、原告会社の不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないことになる。

第五  結語

よって、原告らの被告に対する本訴請求をいずれも棄却することとする。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 本吉弘行 裁判官小澤一郎は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

別紙(一)

イ号物件説明書

イ号物件は次のとおりの構成から成る包装用容器である。

(1) 有底円筒状の容器本体と、有底円筒状の蓋体から成る包装用容器であり、閉蓋状態で容器本体の周壁外面と蓋体の周壁外面は面一である。

(2) 容器全体の閉蓋状態で幅が高さより少し長く、蓋体と容器本体の高さ比は約一対三である。

(3) 容器本体及び蓋体の外面はパール入りの緑色である。

(4) 容器本体の上端には、外径が僅かに小さい円筒状の雄ネジ部を連設している。

(5) 雄ネジ部の下端全周には、細幅の金色のリング部を設けている。

(6) 容器本体の底面には、容器外周と同心の浅い円形凹部を中央に大きく設けている。

(7) 蓋体の上面中央に〈省略〉形の金色の図柄がある。

〈省略〉

〈省略〉

日本国特許庁

昭和63年(1988)7月7日発行 意匠公報(S)

F4-510BC

737670 意願 昭60-33706 出願 昭60(1985)8月7日

登録 昭63(1988)3月22日

創作者 橋本守正 大阪府大阪市住吉区苅田5丁目17-17

意匠権者 橋本守正 大阪府大阪市住吉区苅田3丁目6-8

代理人 弁理士 鈴木ハルミ

審査官 川崎芳孝

意匠に係る物品 包装用容器

この意匠は図面代用写真によつて表わされたものであるから細部および色彩については原本を参照されたい

〈省略〉

別紙(二)

A号物件説明書

A号物件は次のとおりの構成から成る包装用容器である。

(1) 有底円筒状の容器本体と、有底円筒状の蓋体から成る包装用容器であり、閉蓋状態で容器本体の周壁外面と蓋体の周壁外面は面一である。

(2) 容器全体の閉蓋状態での縦横比は約一対一であり、蓋体と容器本体の高さ比は約一対三・五である。

(3) 容器本体及び蓋体の外面はパール入りの緑色である。

(4) 容器本体の上端には、外径が僅かに小さい雄ネジ部を連設している。

(5) 雄ネジ部の下端全周には、細幅のリング部を設けている。

(6) 容器本体の正面には、中央下寄りに、斜め上方に四方に延びる五葉の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる花から成るアロエと覚しき花の図柄模様を白色で大きく描いている。

(7) 容器本体の底面には、容器外周と同心の浅い円形凹部を中央に大きく設けている。

(8) 蓋体の上面中央に、斜め上方に四方に延びる多数の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる茎及びその上端の花から成るアロエと覚しき花図柄二つを、一方を倒置して近接して描いた図柄模様を大きく浮き彫りしている。

〈省略〉

〈省略〉

意匠公報

〈省略〉

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